悲報
昨夜、同じ時期にハンガリーに留学していたRさんから「キシュ・タマーシュが亡くなった」という連絡とURLがメールで届きました。
キシュ・タマーシュは、ハンガリーの民俗音楽界の中心的存在である優れた音楽家です。
ハンガリーのあらゆる民俗楽器を弾きこなす人でしたが、もっとも愛していた楽器は「コボズ」というリュートのような楽器で、自分を紹介するときも「コボズ弾きのキシュ・タマーシュです」と言っていました。
コボズを弾きながらハンガリーの長い長い叙情詩を歌うタマーシュの歌声は、今でも忘れられません。
演奏活動はもちろん、ハンガリー国立民俗音楽学校の校長でもあり、私がテケルーを習いたいと言ったときも快く受け入れてくださった優しい方でした。
またハンガリー第三の都市デブレツェンからカントス合唱団が日本ツアーに来たときに、タマーシュも一緒に来日しコンサートでその歌声を披露してくれました。
私はそのとき通訳のお手伝い兼伴奏ピアニストとしてツアーに同行し、舞台上でタマーシュにインタビューしたり、楽器や曲紹介の通訳をしたりしました。
コンサートツアーで金沢や沖縄へも同行し、海のない国ハンガリーから来た合唱団のメンバーと海水浴で大はしゃぎをし、全員真っ赤に日焼けした顔で金沢市長を表敬訪問したことや、沖縄では朝早く起きて海岸で綺麗な貝殻を拾ったり、夜の海で合唱をしたりしたこともいい思い出です。
ホテルのロビーで行われた毎朝のミーティングでは、必ずタマーシュが一曲歌ってくれて、今思えばとっても贅沢なことでした。
私がハンガリーから帰国して、数えてみればもう20年が経っています。
ハンガリーで知り合った多くの方々のあのときの姿のままの記憶しかありませんが、確実に時は流れ、私自身もそれを感じています。
この20年、私は人間としての中身は成長しているのだろうか?ふと考え込んでしまいました。
タマーシュはきっと天国でも、あの素晴らしい音楽を奏でていることでしょう。
ご冥福を祈ります。