「奇跡のレッスン〜テニス編〜」
年末のことですが、新聞の番組表を眺めていたら気になるタイトルの番組が目に止まりました。
「奇跡のレッスン〜テニス編〜」(NHK)です。
テニスを習っている我が息子に何かのヒントになるかな?という軽い気持ちから録画をしたのですが、スペインテニス協会のトップコーチであるダビッド・サンズ・リバス氏のスポーツ理論に裏付けられた指導法と、哲学とでもいうべき子供に対するメンタル面での接し方が素晴らしく、ピアノ指導者という目線から番組に見入ってしまいました。
ダビッドコーチのテニス観として、「テニスには人を成長させる力がある。テニスコートで起きる全ては成長の機会。トッププレーヤーになることだけが素晴らしいことなのではなく、人生にテニスがあったから今の自分があると将来の子供たちが思えることが大切」という言葉に深く心を打たれました。
これを、「テニス」の部分を「ピアノ」に置き換えたらどうでしょうか。
「ピアノには人を成長させる力がある。ピアノに向かい合う全ての時間は成長の機会。ピアニストになることだけが素晴らしいことなのではなく、人生にピアノがあったから今の自分があると思えるかどうか」・・・
子供たちのピアノのレッスンに携わるひとりの指導者として、心を引き締めなくてはと改めて思いました。
もうひとつ印象に残ったのが「すべてのボールに決断を」という言葉です。
これもそのままピアノに当てはまります。ハンガリーの作曲家バルトークは「すべての音には意味がある(無駄な音などひとつもない)」と言っています。
すべての音に対し、その一音を出す前に頭で考えることが、ピアノを弾く上でとても大事なことです。何を考えるかというと、「この音のもつ意味、役割は? その思い描く音色を出すためにどのように身体をコントロールし鍵盤をタッチすればいい?」ということになります。
上の空で、または無造作に出す音など、譜面上にはひとつもないはずなのです。もちろん、とてもとても難しいことです。でもいつもこのことを意識して、一音一音に向かい合う姿勢が大切であり、自分の思い通りの音が鳴ったときの喜びが、ピアノを弾く楽しさといってもいいでしょう。
ダビッドコーチは「自分で決断する喜びが楽しさにつながる」と言いました。言われたからやる、または言われた通りにやるのではなく、子供たちが自主的に判断し行動できるよう背中を押すのが大人の役目であると。
また「子供のうちは楽しむことが大事。この場合の『楽しい』とは『リラックス(楽して)』するという意味ではなく、『夢中』になるということ。夢中になれば自然と集中力が生まれ、楽しければ(夢中になれれば)厳しい練習にも耐えることが出来る」とも言います。日本はどちらかというと「指導が厳しくなければ上達しない」という考え方が一般的ではないでしょうか。ダビッドコーチの考え方はとても奥が深いです。ともすれば単調になりがちな基礎練習にも常に新鮮な楽しさと、厳しくても辛くても思わず夢中になってしまう練習メニューの多様性・・・テニスのコーチから、とても良い刺激を受けました。
2016年、より「楽しい」ピアノのレッスンを追求したいと思います。